「施工の神様(https://sekokan-navi.jp/magazine/52640)」に掲載された記事を、許可を得て一部引用したものです。

32歳で3代目となった
若き社長の改革

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土木・建築工事の請負や建設 DX技術の開発などを行う小柳建設株式会社(新潟県・三条市)は、地方から建設業界の働き方を変えるゲームチェンジャーとして注目を集めている。
同社は、日本マイクロソフト株式会社と共同開発した、建造物の3Dモデル、写真や設計図などのデータをMR(複合現実) として空間に投影する技術「Holostruction」(ホロストラクション)の取り組みが有名だが、このほかにも社内におけるメール利用の廃止や契約書等のペーパーレス化、施工管理業務のフルクラウド化など、様々なDXを社内に導入することで働き方の文化を一新させた、地方建設業界におけるDXの先駆者と言える。

こうした一連の取り組みを牽引するのは、小柳建設3代目の小柳卓蔵社長。2014年に32歳の若さで社長に就任して以降、社内外において大胆な改革を推進してきた。
「今の建設業界はDXにいち早く動いた方が勝利者となれる」と語る小柳卓蔵社長に、依然としてDXが浸透しない建設業界が抱える課題、そして真に働き方を変えていく上で求められる社長としての在り方について、話を聞いた。

浚渫工事に強みを持つ異色の地方ゼネコン

――小柳建設の概要からお願いします。
小柳 卓蔵氏 当社は、新潟県三条市に本社を置くゼネコンです。事業としては、道路・橋梁・舗装工事の土木工事や建築工事のほか、新潟県は降雪が多いため冬季には除雪作業も行っています。ほかに特徴的なものとして、遺跡を発掘する埋蔵文化財調査や、川のヘドロを除去する浚渫事業も手掛けています。
この浚渫事業については、30年間にわたり研究開発に取り組んでいる当社の強みでもあります。元々は、浚渫工法である企業が開発しきれなかった空気圧送工法を、当社を含む何社かで受け継いだことを契機に、北海道から沖縄までできる範囲内で浚渫工事を受注しながら、独自に小型の圧送技術を磨いてきた経緯があります。

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現在では、東京都内の河川においては7割の施工実績を持つ安定した施工能力があります。東京五輪招致の際には隅田川、神田川、旧中川、石神井川の4河川の浄化に関する浚渫工事を受注し、施工しました。ほかにも、2021年には「皇居の下道灌濠」の浚渫工事も手掛けています。
また、最近では日本マイクロソフト株式会社と協業し、建設業の施工管理の検査事業の効率化を進める「Holostruction」(ホロストラクション)事業も展開しています。

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メールも電話も必要ない。
DXで業務をフルクラウド化

――Holostructionに代表されるように、小柳建設では卓蔵社長への代替わり以降、DXに関する取り組みを社内外で積極的に推進していますが。
小柳 卓蔵氏 ええ。社内での取り組みの一例としては、2016年の秋頃から社内ではEメールを事実上廃止し、現在ではチャットツールの「Microsoft Teams」を活用しています。Eメールでは、スパムメールや不要なメールもたくさん届くため、大切なメールが埋もれてしまいますし、探すにも手間が掛かります。また、メールは送ったら最後、取り消しができませんが、チャットであれば変更も編集も可能です。
今ではMicrosoft Teamsによって会議やチャット、通話、共同作業など、ほとんどの作業が完結しています。唯一メールを活用するのは、社員に給与明細を送る時だけです。メールだけでなく電話についても、電話応対についてはすべて外注し、担当者には追ってチャットで内容を伝わるようにしています。

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また、建設業界では未だFAXが営業ツールとして使われており、セミナーや建設機械などの営業FAXが頻繁に届きますが、Microsoft TeamsとFAXを連携しているので、FAX機から紙が流れることはなく、必要な情報のみをMicrosoft Teamsで選別できるようにしています。加えて、調達業務では「クラウドサイン」による電子契約を行い、人事労務業務にも「SmartHR」を用いるなど、ペーパーレス化を進めています。
施工管理業務についても、現場情報共有システムの「All-sighte(オールサイト)」や防犯カメラの「Safie(セーフィー)」などを導入することで業務全体をフルクラウド化し、いつでもどこでも仕事ができるような環境を整えてきました。

生産性を上げて
現場監督を休ませる

――DXによって、社員の残業時間も短くなったのでは?
小柳 卓蔵氏 そうですね。前述したDXの推進、社内のフルクラウド化などにより、月平均の時間外労働時間は2018年度の7.5時間から翌2019年度は3.3時間と、半分以下に減少しています。昔であれば、書類は社内で確認しなければならないなどの業務の無駄もありましたが、今はフルクラウド化によって場所を問わずに業務が可能になり、生産性も一気に上がっています。

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また、DXに加えて休日制度自体も大きく見直してきました。当社では何年も前からリフレッシュ休暇制度を設けており、土日を含めた連休の取得を奨励しているのですが、この制度を実現にするために当初の売上高100億円ほどの規模から、70~80億円まで売上を圧縮しています。
これは、現場に必要な人員をしっかりと配置するためです。あまりに少ない人員で現場管理をすると現場監督は休むことができませんから。一般的に、現場監督の休みが取れない理由のほとんどは「忙しいから」ですが、とくに今は新型コロナウイルス感染のリスクもある中で、休ませることのできない運用体制であることはおかしいでしょう。
個人ではなくチームで成果を出すことで、売上高よりも、病気など何かあった際もチームでフォローし、安定的に現場を回せる体制を維持することを選びました。
書籍の中でも紹介させていただいていますが、こうした取り組みがうまくいったのは、「アメーバ経営」導入があったからにほかなりません。経営に統一した、一つの指標を持ち込んだからこそ、ここを起点にDXが進んだものと考えています。
建設業界のドンブリ勘定を卒業して、精緻な数字で経営をして行ければ、全ての建設業者が生き返ると思います。これもまた経営者の考え方によるとは思いますが。

属人化からの脱却には、
社内からアレルギー反応

――これだけの改革を進めるのは大変だったかと思いますが。
小柳 卓蔵氏 ええ。改革に当たっては、役員の総入れ替えを行い、ゼロベースですべてを見直していきました。元々、役員は10人いて、平均年齢は60歳強でしたが、2019年度には3人まで減らし、かつ人員を一新して、平均年齢41歳で再構築することでスピード感を持って取り組みを進めてきました。
ですが、一連の改革の際には、社内からアレルギー反応が出たことも事実です。これは中小企業ならではですが、仕事の内容が属人化していたこともあり、クラウド化等により業務の共有が図られると仕事を取られると思ったのでしょう。中には、「そんなことをするくらいなら退職します」という社員もいました。「オレが辞めたら困るだろう」と会社を脅しにかかってくるわけですよ。
しかし、それに屈していくと変化することはできません。私も懸命に説得しましたが、納得してもらえない場合はその意思を尊重し、最終的に退職されていきました。業務を仕組み化するという軸に共感してくれる社員に残ってもらい、今は皆がその判断軸のもとで働いています。

後継者不在よりも

「社長を退かない」
ことが問題

――小柳建設では、事業承継を契機に様々な改革を進めてきましたが、建設業界全体を見ると事業承継が上手くいかないケースが目立ちます。この現状をどう見ていますか?
小柳 卓蔵氏 建設業界の事業継承に関しては、世間で叫ばれている後継者不在よりも「社長を退かない」ことのほうが問題だと思っています。日本の中小企業では、50~60歳と高齢になってから社長を引き継ぐことが多いですよね。すると、引き継いだ側は「この年になってようやく思い通りになる」「やっと自分の時代が到来した」という感覚を持ちます。こうなると、本来ならば早くバトンを渡したほうが時代の変化に対応できるにもかかわらず、どんどんバトンを渡すのが遅くなっていってしまいます。
私は4人兄弟の3男坊で、諸般の事情で私が継承することになったのですが、父である名誉会長も28歳の時に事業を引き継いできたこともあり、「若いうちから経営をしたほうがいい」と私が32歳の時にバトンを携えてくれたことはありがたいことでしたね。名誉会長の後押しがなければ、ここまで変化させることは、不可能でした。

改革を阻害する会社経営者たち

――建設業界には未だ残る古い文化により硬直化し、それが改革を阻害しているように感じます。
小柳 卓蔵氏  建設業界であろうと、我々が展開しているのはあくまでビジネスです。発注者の方々の協力も必要かもしれませんが、まずは我々経営者が主体的に変わらなければなりません。
しかし、すべての会社とは言いませんが、建設業界において新たに社長となった二代目や、あるいはこれから二代目として社長に就任される方は、昭和の働き方を続けたくて仕方がないのです。DX等の取り組みも「一緒にやりましょうよ」と声を掛けても、「それは小柳建設さんだからできるんですよ」と言われてしまう。結局、建設業界の働き方を変えるにはまず社長の意識変革が必要で、私はそこに一石を投じたいのです。

建設業界は、
DXに取り組んでいる企業が勝つ時代

――建設業界にDXを浸透させていく上での課題は?
小柳 卓蔵氏 当社では、「社員の働き方を楽にしたい」という目的のためにDXを始めました。今ではありがたいことに講演にも呼んでいただくのですが、「どうやってDXを進めたらいいかわからない」という質問をよく受けます。これでは考え方自体が間違っています。
DXそれ自体は目的ではありません。あくまで手段です。当社でも電話によるコミュニケーションが面倒だから、チャットに移行したんです。つまり、「会社が抱える課題解決のために、DXが必要である」という思考が大切です。しかし、建設業界は「変化せざるを得ないから変化する」という受け身の体制なんです。これがすべての課題だと思っています。
国土交通省でも「i-Construction」による建設業界の変革を目指していますが、今やDXに取り組んでいる企業が勝つ時代です。建設業界におけるDXは二極化が進んでおり、昭和の古い経営を良しとする企業は、当然DXについて後ろ向きとなり、社員の根性や体力に依存していくことになります。これでは昨今の働き方改革の潮流にも逆行しているので、必然的に担い手の確保や育成に失敗します。今後、こうした建設会社は事業を継続すること自体難しくなっていくと思います。
我社よりも大きい企業からは、あからさまに嫌がらせや誹謗中傷を受けることもしばしばあります。建設業界は、なんといっても考え方が古い業界ですから、何か新しい取り組みをしても、規模が大きい企業が覇権争いをしようとしてきます。正直、私はそのようなことに興味がありません。マウントの取り合いで下手な“競争”をしたいわけではなく、むしろ“共創”をしたいと考えています。全国には視点の高い建設業者の方々も希少な存在ですがいらっしゃいます。そのような方々に今回の書籍を手に取って、さらに力をつけていただき、次の時代で共に勝ち残る企業づくりをしていってほしいと思います。


私は、建設業界はまた素晴らしい輝きを取り戻せると確信しています。それはテクノロジーを使う業界だからこそ、もう少しDXが進み、足の引っ張り合いをする世代がいなくなったところで、大きく変貌を遂げていくと思うからです。
今はまだ、旧世代の方々が、どうしても気合と根性とやせ我慢という価値観を持ち、むしろこの価値観を「カッコいい」とすら思っています。その時代が終焉を迎え、スマートな働き方がスタンダードになる頃、本当の輝きを取り戻すと信じています。
  今回の書籍が、その原動力となれることを願って出版させていただきました。

関連書籍

建設業界DX革命
小柳卓蔵[著]
小柳建設株式会社 代表取締役CEO
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Holostruction完全マニュアル
中靜真吾[著]
小柳建設株式会社 専務取締役COO
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建設業界DX革命

建設業界DX革命

小柳卓蔵[著]
小柳建設株式会社 代表取締役CEO

発売日
2021.11.01
定価
1,650円(税込み)
出版社
幻冬舎メディアコンサルティング
言語
日本語
単行本
192ページ

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書籍情報

保守的な建設業界に革命を起こせ!

地方の土木建設会社が、MR(複合現実)技術・ホロストラクション開発で「建設DXの旗手」になるまでの軌跡――

このままでは自社だけでなく、業界も先がない……
日本の建設業界はきつい・汚い・危険という3K職場のイメージがあり、労働者の減少が著しく、特に若者の就職希望者が減っている。
省人化・効率化を推し進め、魅力ある業界に変わるためにはDXが不可欠だ。

日本マイクロソフトと共同開発。
最新のテクノロジー・ホロストラクションでDXに成功した企業の挑戦の記録

建設業界はきつい・汚い・危険という3K職場のイメージから、若者の就職希望者が減り、慢性的な人材不足が続いています。
人が足りなければ効率よく業務を進めなければいけませんが、建設業界はいまだにアナログで非効率な職場のままです。
金融会社に勤務していた著者は家業の小柳建設株式会社に入社し、デジタル化が進んでいた前職と比べてあまりにもアナログな職場に驚きます。
小柳建設だけでなく建設業界の将来性を危惧した著者は、会社のIT化を進めていくことを決意し、アメーバ経営やシステムのフルクラウド化を取り入れます。
2016年に日本マイクロソフトと共同で、MR(複合現実)技術・ホロストラクションの開発を始めました。

本書ではアナログで非効率だった職場から「ホロストラクション」の誕生により「建設DXの旗手」と称されるまでの小柳建設の軌跡を紹介します。

著者について

小柳 卓蔵/オヤナギ タクゾウ
1981年新潟県生まれ。
金融会社に勤務していたが、祖父の代から続き父が経営する小柳建設に2008年に入社し、管理部門、総務・人事部門などを担当。常務、専務を経て2014年6月社長に就任。
京セラ創業者である稲盛和夫氏の本『アメーバ経営』を読み、同氏の主宰する塾に参加、同氏のフィロソフィを会社に浸透させて盤石な基礎を築き、伝統を重んじる建設業界にあって、DXを推進。
2016年日本マイクロソフトと共同でMicrosoft HoloLensを活用し、建設業における計画・工事・検査の効率化やアフターメンテナンスのトレーサビリティを可視化する「Holostruction」のプロジェクトをスタートさせた。

Holostruction
完全マニュアル

Holostruction完全マニュアル

中靜真吾[著]
小柳建設株式会社 専務取締役COO

発売日
2021.11.01
定価
1,650円(税込み)
出版社
幻冬舎メディアコンサルティング
言語
日本語
単行本
202ページ

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ホントで購入する

書籍情報

建設業界に革命をもたらすMR技術「ホロストラクション」
その機能と使い方を徹底解説!

除雪や河川の浚渫など、労力と危険を要する仕事が多く、何度も現場へ足を運ばなければならない土木・建設業界……。 そのような社員の負担を軽減し、施主や施工主がどこにいようと、まるで目の前にいるかのように同じ空間を共有しながら打ち合わせができるのが、建設業務MR(複合現実)アプリケーション「ホロストラクション」です。

ホロストラクションを使えば、施主や施工主がどこにいようとも、リモートで対面と同等のコミュニケーションを実現し、接触の機会や時間の無駄を削減することができます。
また施工過程や現場を目の前に投影することで、図面だけではイメージしづらい建設物の完成形を全員で共有することができ、潜在リスクや問題点を事前に発見することも可能です。
業務の効率化や安全性の向上を実現することで、建設業界のイメージを改善や人材不足の解消にもつながるのです。
本書ではホロストラクションの魅力とホロレンズの操作手順について詳しく解説するとともに、実際の導入事例と現場の声も紹介しています。

著者について

中靜 真吾/ナカシズカ シンゴ
小柳建設株式会社 専務取締役COO
1975年、新潟県生まれ。日本大学卒業後の1998年、小柳建設株式会社に入社。
公共工事における土木施工管理、品質管理に長年取り組む。
実務で培った土木分野、建設技術分野の知見をもとに、Holostruction開発責任者として従事。
2013年、執行役員に就任。新潟県で発生した大規模災害での活動経験を通じて、建設業ならではのスマートフォンアプリケーションを開発。
2016年、取締役に就任。Holostructionプロジェクトに開発責任者として参画。
DXを推進し、建設業の働き方改革、自社の経営改革に貢献。
2019年、専務取締役COOに就任。
2019年、2020年、2021年と国土交通省PRISM事業採択。
2021年国土交通省北陸地方整備局局長表彰のプロジェクトにもDXアドバイザーとして参画。

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